そういうわけで、私が歌舞伎を見るのはいつも歌舞伎座なので、クラシックな演目がほとんどです。(時々新しいものもありますが、私が見たことがあるのはコメディ的なものが多いです)
コメディはともかく、勧進帳などの有名なお話は、昔の価値観 をベースにしたストーリーです。主君のために我が身やわが子を犠牲にする悲劇などは典型で、親子の情や恋のもつれなども、やはり現代から見ると単純すぎたり儒教的で古く感じたりします。歌舞伎の魅力として「美しい、面白い、心地よい」ということは思っていましたが、「感動」というのはそういえばなかったなと思います。
しかし今回、オンラインでスーパー歌舞伎「新版オグリ」を初めて見ることができ、見方が変わりました。スーパー歌舞伎は1977年に創始され、歌舞伎の様式を踏襲しながらも現代語セリフや宙乗りなどの派手な演出でわかりやすいということで知っていましたが、初めて実際に見て「ストーリーが現代的な価値観である」というのがどういうことかを理解できました。
「一期は夢よ、ただ狂え」というキャッチフレーズを見て、はぐれ者の若者たちが権威に反発してウェーイして、派手で華やかな立ち回りで盛り上がるお話かと思ったら、全く違いました。そういう場面もありますが、実は艱難辛苦の末に成長していく話で、単純な因果応報でもなく理不尽なことが次々起こり、中盤あたりからは涙が止まらなくなりました。もともと仏教の教えを説くためのお話がベースなのですが、いわば「普通の演劇」のような、現代人の心情に訴えるストーリー・演出になっています。
市川猿之助さんが主役(小栗判官)のフルバージョンと、中村隼人さんが主役のダイジェスト版の両方が公開されていたので、両方を比べて、それぞれ違う良さを楽しむこともできました。相手役の照手姫はどちらも坂東新悟さんですが、これがなんと素晴らしかったです。(涙涙・・・)
私は歌舞伎を見て泣いたのは初めてでした。両バージョン合わせて4回見ましたが、4回目でも泣きました。私にとって、新しい体験でした。
期間限定だったのでもう今は見られなくなっていますが、最後に見たときにYouTubeでの再生数はフルバージョンが約14万、ダイジェストが6万ぐらいあったと記憶しています。
再演があるのなら、なんとか日本に行くタイミングをあわせて、いつか見てみたいと思います。